刀工助寿
伏見稲荷小鍛冶
戦前から戦後の激動の時代に生きた刀工。
昭和二十年
正装に身を包んだ弟子数人を従えて、神主、陸軍大将以下お偉い様方が見守る中、横座が今まさに振り上げた金槌を真っ白に熱された鉄めがけて振り下ろさんとする瞬間を写した写真がある。この時を以て彼は稲荷小鍛冶に任ぜられた。
横座というのは鍛冶屋の棟梁の事だが、その写真に映る横座こそ若き助寿刀工である。
同年八月終戦。
終戦に伴い刀鍛冶は廃業さる。
職人一本に生き、働き盛りの30代。殺しても死なぬ30代。頭を下げて銀行から借金し事業を始めるもお金を持ち逃げされる目にあう。
戦後の混乱期。みんなが貧しかった時代。
俺には金槌があるともう一度始めた鍛冶の仕事。包丁や農具、トラクターの刃から火箸まで何でも作った。
そんな時、金床が盗まれる。鉄屑屋にあったのを見つけて取り戻す。弟子による盗みだった。
そりゃあ酒に溺れたくもなろう。
皆んなが貧しかった時代。
戦の為に刀を作った最後の世代。
この火箸。一見ただの鉄の棒に見えるが玉鋼でできている。玉鋼というのは日本刀と同じ材料。折り返し鍛錬という製法を経て作られている。
つまりこれ自体が日本刀になる性質を秘めている。
この火箸にはひとりの男の人生が詰まっている。
鳥取砂丘砂鉄 玉鋼特選
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